マグネチックピックアップ

これ、SPレコード専用の電動プレーヤーです。
前々回から手巻き蓄音機の話題を書いていますが、その1号機の改良型を作る計画でした。
今、その案を練って設計図を作っているところです。そんなさ中、以前から思っていたことに手を出したのです。
ちょっと長い冒険物語、お付き合い下さい。

蓄音機はすばらしい。味もある。けど、一面聴くたびにゼンマイ巻くの大変だから、電動モーターにしたらどうか。と以前から思っていました。
もちろん、
手で巻くところが、いいんじゃないか。ひとつの儀式さ。大切な歌を聴くんだから、ボタンひとつのピッじゃつまらんだろう。書道だって墨を静かにすって心を落ち着かせてから書くじゃないか。
貴重なSPレコードなんだから、心を込めて、ゼンマイを丁寧に巻いて、精神統一してから聴きたまえ。その方がありがたみもあるじゃないか。
という意見もあって、同感です。ま、私が蓄音機を聴く時はいつも酒に酔ってますけど。
竟見ごもっともですが、心の隅でずっと、モーターはどうかなと思ってました。


で、とにかく様子を見てみようと、モーターは動くがあとは不明という、筐体のないジャンクのプレーヤーを入手したのです。

さて、ジャンクプレーヤー、モーターはとりあえず回りました。スタートストップ機構がNG ですが、注油や整備すれば問題なしです。
これでSPレコード を電動で回すことは試せます。

しかし、今度はピックアップが気になりました。元々、ピックアップのことは必要としてませんでした。昔からのサウンドボックスを使うつもりですから。でもどうせなら試してみようと、点検し始めました。

デカイ。頭の部分は3cmX4cmくらいあって、アームと一体化してます。しかし、これ.何型のピックアップだろう。鉄針用だけど。
クリスタルピックアップだとすると、ロッシェル塩が風化して、溶けてるだろうな。はっきりしないが70年くらい昔の物だから。
もしかして、噂にきくマグネチックピックアップか? まだ見たことねえぞ。

で、まず、冒頭写真の右下に見えますが、クリスタルイヤホンを出力のシールド線につないで、針をセットしてコリコリやってみます。反応なし。もし、クリスタルピックアップなら、小さな音がイヤホンから聞こえるのです。クリスタルが、溶けたか壊れたか。
あるいはマグネチックか? だとすると、コイルと磁石だ。
じゃ、導通テストだ。導通なし。あれ?

で、デジタルテスターの交流mV計にして出力につないで、SPレコードをかけると、確かに演奏の強弱とシンクロして、5mV~10mVくらい出てます。
まさか、現代のMM型じゃないよな。
これはやはりクリスタルが劣化しながらも生きているということか? もし、クリスタルが健康なら、100mV以上の出力は出ているはずです。
風化したクリスタルは直せません。

でも、あきらめきれず、とにかく中を見るベしと思いました。
アームをひっくり返してもネジがありません。どうやって開けるの? よーく観察すると、金属ボディーが互いにカシメ合ってるとわかり、最初のカギとなる鉄板をハンマーで叩いてずらし、半分は力技で開けました。

うわっ出た。マグネチックだ。実物は初めて見る。
馬蹄形の磁石、コイルがわかる。しかし、コイルが中で切れてたらおしまいだ。たぶんそうだ。
今日はわからないので、また今度ね。と、元に仕舞おうとして、気づきました。アース側のこれ、コイルのリードだろ、接続不良じゃねえの?
ジャーン、ちょっとつついたら、ハンダの山から、5mmほどのリード線が離れました。ワッ。当たり! これだ。
さっそくテスターで導通テスト。シールドのホットと、この切れている細いリード線、OKだ。導通あり。やった一!
もうこっちのもんだ。
下の写真の 白い矢印の先の、下からちょっと伸びたヒゲのような線です。そっとハンダ山から離しました。
これが原因、ほぼ確定です。

原因は中途半端な断線という一番やっかいなヤツだったのです。
もうこっちのもん じゃなくて、これ直せる?
このコイルの銅線、糸より細いぜ。0.2mmくらい?
長さは5mmくらい。
下手につまんだり、どうかすると、切れる。
ハンダ付けをして、アース側に導通させれば直る。
でも、失敗したら取り返しつかない。
しかしなあ、いっちょ一やってみっか、となりました。

ピンセットを両手に持ち、左手でコイル線をつまみ、というより、支え、右のピンセットにちぎった紙ヤスリをつまみ、そっとコスリました。
研けたかどうか、あんまり小さ過ぎて、老眼ではよく見えません。
あまり何度もやれば線が切れたり、折れたりします。切れたらオジャン。
今の私にはこれを分解して、コイルを巻き直す気力も勇気もないのです。
なんか爆弾処理するスリルとサスペンスになってきました。

見えていないけど、数度こすって、感でよしと決めました。
いよいよハンダメッキします。一発勝負!やり直しはできません。やり直すと、ハンダのヤニが付いてまた研きからです。

ジャーン。ハンダ付きました。ここまで来れば、こっちのもんです(2回め)。
あとは別のハンダメッキしたリード線を使ってアース側と橋渡しを付けました。
下の写真は術後のものです。導通確認してアームに戻しました。

ここまで来たら音が聴きたい。でも、アンプがない。引越し以後、アンプは仕舞いこんだまま。
そうだ、超再生ラジオのアンプ部を使おう。(以前このブログに登場してます) あれならすぐそこにある。
早速用意しました。
ーニヵ所ハンダ付けを外して、トランジスター1石と、D級小型アンプIC の増幅部に、マグネチックピックアップの出力を繋ぎました。

レコードを用意して、さて、どうか。緊張の-瞬の次に、出た一!!
音出ました。手術成功です。
すごくパワー感のある音が もうもうと、出ています。音悪いです。歪んでます。
こともあろうに、レコードは『ハンガリー舞曲』です。108円のレコードでスレ音ザーザーします。
また音の悪いことの半分はこの超再生のせいです。1石のプリ部は抵抗とコンデンサーを省略して、歪み承知で作りましたから。

しかし、このピックアップも音はいいとは言えません。今の時点で音の評価はできませんが、ただ、いきおいのある音ということだけ言えそうです。
またイコライザーを通さなくても低音がブンブン出てるところがいいとこでしようか。
MM型とは違うところでしょう。

この音を聴いていて、宮澤賢治の『セロ弾きのゴーシュ』を連想しました。
あんなふうにゴーゴーと、いきおいのある音です。
すぐ次に、スピーカーを16cmの大きいフル レンジに変えました。アンプはそのまま超再生。
写真を見てください。
超再生の後ろにぼんやり立っているのがそれです。
バラックのかがみです。ダンボールで作り、ガムテープで、サランネットの代わりのアミ戸のアミを貼ってます。これで、以前、ゲルマラジオなども鳴らして、実験用として活躍してました。バラックの精神というかご本尊です。
これでもユニットは泣く子も黙る フォステクス です。しかも、16cmフルレンジ最高級の FF165WK です。
で、音はちょっと良くなりました。

ターンテーブルの回転トルクは十分にあるようです。

この夕べ、SPレコードをガーガー鳴らしながら、私が祝杯をあおっていたのは言うまでもありません。

蓄音機の電動回転化 についてですが、確かに便利です。しかし、満足感に何かが足らなくなります。何でしょう。やはり儀式が必要なのでしょうか。
美味なる料理を前にして、人は舌なめずり という儀式をしますが、ゼンマイを巻くという行為は、それと同じなのかも知れません。