板の上の単球アンプ

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バラックの単球アンプです。
トランスレスです。球は50EH5。ヒーターの50Vの作り方が今回の眼目です。
この記事の最後に、この球を使って作ったポータブルレコードプレーヤーの紹介もしています。

おそらく1960年前後と思われますが、庶民的ポータブルプレーヤーがありました。50EH5 1本のアンプにクリスタルピックアップでした。
これが70年代にはジャンクとして入手でき、少年だった私はそれを分解して中を見ました。印象深かったのは、ヒーターと直列の大きな抵抗でした。
100Vを抵抗で50Vまで下げていたのです。ヒータートランスを使うより安くできますよね。
しかし、熱のせいでしょう。抵抗は茶色に変色していました。
ちなみに、セレン整流器を使っていて、ヘンテコリンな形が印象的でした。

さて、今回はこのヒーター電圧のために、コンデンサーを使って、100Vを50Vまで下げた、レポートです。

下図は左がヒーター点火の基本回路図(電源、東日本の50Hzの場合)、右がこの原理の公式で、上級ハムの教本に載っているものです。
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ハムの試験勉強をしているとき、
「ん?これは、50Vヒーターのドロップ抵抗の代りになるんじゃねえの?熱も出ないかも」とひらめきました。しかし、
コンデンサ爆発すんじゃねえの?」
と、怖がっていました。
ところが、後年、ネットで、これを実際にやった方の記事を見つけました。元はラジオ製作雑誌に記事が出ていたそうです。
これを知って私もやってみたのです。
もし、追試なさるなら、「ヒーター」「コンデンサ」で検索すると、先人の記事が二三ありますから、そちらを参考にして下さい。

コンデンサ一はフィルムコンデンサーを使います。耐圧も250V以上はあった方がいいでしょう。
電源の周波数によって C の値が違います。

真空管のヒーターを R と考えます。ただし、点火して、ヒーターが十分に熱した時の値です。真空管の規格からの計算値を使います。
つまり50EH5では、50V 0.15A 規格なので 333オームです。

Z は回路のインピーダンスです。回路の両瑞には100 Vかかり、0.15A 流れるはずなので、666オームです。

さて、Xc はコンデンサーのリアクタンスで、抵抗みたいなもんです。
2パイ f C分の1 がその 値になります。
f は電源の周波数

原理の公式を C= になるまで変換していったのが下図の式です。(途中省略)
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ここに数値を入れて計算すると、
ヒーター電圧 50V 0.15A の球には 0. 0000055 F のコンデンサーだと出ます。(50Hzの場合)
つまり、5.5µF です。

さて、実際の回路では、突入電流を緩和するためと、電圧の微調整のために、10~30オームの抵抗を直列 に入れます。パーツの誤差もあるし、家庭の電圧はピッタリ100Vというわけではありませんし。私のところのコンセントは103Vでした。
私はヒーター電圧を低くめに 48V くらいにしておきました。精神衛生上のたのです。
この抵抗が入ってCの値はちょうど良かったです。

        電源部回路図
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5.5µF は 3.3µと2.2µ を並列にして作ってます。このコンデンサ、結構値段が高いです。トランスよりは安いですが。トップの写真で黄色いのがそれです。
整流ダイオードの手前にも保護用の抵抗 10~20オームを入れます。
電源トランスレス回路は、アースがAC のホット側 になることもあるので、感電注意です。

ようやくアンプ部回路図です。
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モノラルアンプです。
入力トランスは接続する機器を絶縁するために入れました。CDプレーヤーや、クリスタルピックアップをつなげるつもりで作りました。
サンスイトランジスター用の小型トランスです。ST-20とかST-17Aとかいろいろ8個くらい付け替えて実際に音を聴いて選びました。
CDプレーヤーをつなぐなら、入力トランスのインピーダンス、1次は 10 Kくらい。
クリスタルピックアップは2Kくらいでしょうか。
2次側は20 K以上がよいでしょうか。

出力トランスは真空管ラジオ用の物ですが、十分いい音が出ました。インピーダンスは 3 Kです。
出力トランスの1次側にC とVR がありますが、昔の真空管ラジオにあった音質調整用の回路です。
これの値も聴いて決めます。

真空管の規格では、プレートは135 V以下、42 mA以下にです。出力トランスが小さいので、40 mA以下にした方が良いでしょう。

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ネオンランプは針金(黄色のビニール被服) をねじって柱にして付けてました。
板はカルファタという柔らかい板で、木ネジが楽に入ります。
入力のピンジャックはRLを単純に並列にしてモノにしています。

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上の写真は、平滑の抵抗をチョークトランス (2H) に変えたバージョンです。もちろん、チョークの方がふくよかで良いが音します。
前面アルミパネルは (何かに使っていたジャンク) 黒いツマミが音質、灰色のツマミがSW付きの音量です。
真空管のソケットはクランク型の金具とスペーサーで、木ネジ留めです。
これももし、シャーシに取り付ける穴を開けるとなると、大変な作業です。
シャーシパンチがあって、簡単に円が開いたとしても、ビスの穴をヤスリで修整したり、バリを取ったりとか。
この写真をよく見ると、この時試していた入力トランスは ST-27 とわかります。
最終的にはCDプレーヤーなどの入力には ST-17A を使っているはずです。

このアンプ、NFBもなし、5極管のまんま、歪率なんか5%以上あるし、F特性はカマボコ型だし、出力1 Wくらいしかないし、
でも、とてもイキイキとした音で鳴ります。
自分が今までやってきた、2A3だ、やれKT88だ、やれ三結だ、などというのはなんだったのか? と思いました。

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上の写真は 50EH5 を使って作ったトランク型のポータブルレコードプレーヤーです。
「CHIMNEY」と名付けました。名前を付けるなんて私にはないことですし、ましてやバラックではありません。
上記の 単球アンプの実験で、この球がオーディオとして十分使えると分かったので、この球2本を使い、ステレオにし、安いプレーヤーを大改造して、トランスレスアンプを組み込みました。
ヒーターは2本直列なので、コンデンサは不要です。
アンプ部は変わりません。
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プレーヤーの隅に真空管が2本、煙突のように出ています。で、「チムニー」です。
78回転もあるのでSP盤もかけられます。スマホなどの外部入力もあります。入力トランスは片チャンネル2種類入れてあり、切り替えます。
前面の黒い四角はファンではなくスピーカーです。
フォステクスの8cmスピーカー P800K です。安いのにいい音します。

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とあるジャズ喫茶のカウンターに載せて、この球のポータブルレコードプレーヤーを披露した写真です。
ベールを脱いだような浸透力のある音に、皆さん驚かれていました。