CDプレーヤー改造 冒険活劇

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これは今現在のことです。

蓄音機1号はバラして、2号機への作り直し中なので、今はCD を真空管アンプと励磁型スピーカーで聴いています。
CDプレーヤーはデーンと鎮座するフルサイズの物を使ってました。音はいいのですが、狭い所にはちょっとじゃまでした。
そこで、先日、中古の小さいCDプレーヤーを入手しました。
有名メーカーのコンポセットのプレーヤーです。

音はあまり期待してませんでしたが、届いたその日の印象では「良し」でした。低音も伸びてるし、「使える」でした。
ところが2日目に聴くと、音のエッジが甘いなと思うようになりました。非常に大げさに言うと、モヤついている です。十分普通に聴ける音ですが、音にうるさい私には不満がムクムクと。

で、3日め。このプレーヤーの電源のダイオードを ファーストリカバリダイオード に取り換えることにしました。コンデンサや出力ICの交換より、簡単に出来そうだし、
このファーストリカバリダイオードは、去年、『板の上の単球アンプ』のあとで試してその音の変化は経験しているので、効果はきっとあるだろうと思ったのです。

さて メーカーもん に手を出した冒険活劇、どうなりますことやら、最後までお付き合い下さい。


彼は思いたったらすぐやる性分なので、秋葉原へ飛んで行き、海神無線に乗り込んだ。ファーストリカバリダイオードという現代最先端のダイオードを入手した。UF5408 というデカイダイオードだ。これを今入っているただのシリコンダイオードと交換し、音の悦楽に浸ろうというのだ。

さてブツを手に入れ早速作業開始だ。
余談だが、これが彼の愛用のハンダゴテ。
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マグナムとか、そういうんじゃない。40Wの、昔からの木の柄のコテである。彼に言わせれば、「プラスチックの柄じゃだめなんだよ。こう握ったときに温かみがないだろ」 である。熱くなるコテに温かみもくそもないだろと筆者は思うが。
彼はそのコテ先の銅にヤスリをかけた。気合いが入っている証拠である。

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CDプレーヤーの天板を開けた。中央上にブロックコンデンサの頭が2つ見える。デカイし、2つときたら、こいつが電源の平滑だ。
さらにその陰に黒い小さい円筒型の物が4つある。はは-ん、これがダイオードだな。コンデンサのそばに4つときたら、ブリッジ整流のそれだ。間違いねえ。
彼はすぐに気づくが、基板に白いプリントで、矢印型のダイオードマークがある。
ふん、ありがてえ。これならダイオードの極性も間違えっこねえや。

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さてどうやっつけるか。彼は考えた。
あと2時間で日没だ。早いとこケリつけて、飲みに行きてえな。祝杯を挙げるのだ。
で、彼の出した結論。一番手取り早い方法はだ、バラさずこのまま、基板の表からダイオードちょん切って、基板に残したリード線に新しいダイオードをくっつける。つまり、ダイオードの継ぎ木戦法だ。すりゃ、分解して基板の裏を出すだの、ハンダ吸い取ってダイオード引っこ抜くとか、しなくてすむ。へタすりゃパターンはがしちまうしな。

よしこれだ。と言って彼は4つのダイオードを端から切り取って行った。
やあ、しかし、このメーカーさんには感謝だな。こんなに広々スペース空けといてくれて。ラッキーだった。
それに1999年頃のブツなんで、リードつきのパーツだ。ラッキー。
これが今じゃ、米粒みてえなチップなんとかいう実装パーツだからな。いやんなる。20世紀はいい時代だったぜ。
と呟いているうちにダイオードは切り取った。そこから時間をかけて、短いが、ちょっと残こしたリードにヤスリをかけた。そして、ハンダメッキをする。
この戦法の成功率92% 楽勝だ。

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彼は先ず、磨いたコテ先の方にハンダメッキした。彼は道具にはこだわるプロフェッショナルであり、今の妙に加工されたコテ先では「ハンダの着き味」が悪いのであるそうだ。赤銅にハンダを馴染ませ、一気にスパッとやらねば気がすまない。

気合いを入れて、リード線にハンダメッキを着け始めた。2秒以内で、着ける。長く熱を加えるとろくなことにならない。
1本めのダイオードの切り取り跡のリードにメッキ成功。
2本めのリードの長く残っている方、おちゃのこサイサイ。
ところがこれと対になる短く残ったリードにメッキを着けようとしたときに悲劇が起こった‼
3 mmほど頭を出していたそのリードが、ハンダゴテをあてて1秒で、ヒョイと頭を引っ込めてしまったのである。基板の穴の中に隠れてしまった。
彼は青くなった。
ええ一?‼ いやんなる。
海底の砂地の穴に立っているギンポというドジョウのような魚が危険を察知して、チョロっと穴に引っ込んでしまったような風景だった。
裏でハンダが溶けたんだな。でもよ、だって、ほんの1秒だぜ? こんなのある? こういうことがないようにってさ、リードを寝かしておいたんだろうが。くっそ一。
リードの曲げ方がここだけ甘かったのである。斜めに立っていたのである。この後、彼はこれについて『ギンポ現象』と名付けた。

こうなったらどうしようもない。小さな穴をほじくれば、基板を壊すだろう。
シャーシから基板を外して裏返しにして、逃げたリードをひっつかまえて、八つ裂きにしてやる。

基板を外すのが大変だとわかっていたから、この戦法に出たのにさ。くそ一。
ネジ外したりあっちこっちのコネクター抜いたりキケンな作業だぜ。へタすりゃ壊す。
この成功率67%だ。日没に間に合うか。

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おお、ついに基板を外してひっくり返した。
しかし、電源基板と、メインの基板は分けて、独立させといてよ、メーカーさん。しかも、電源基板の上にメイン基板立ててくっつけるのやめてよも一。と彼はぼやいた。
基板を外すには、フロントのパネルまで絡んでいて外さねばならなかった。

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ちきしょ一、これだよ(赤い矢印の先) 手間かけさせやがって。
彼は逃げたリードをハンダゴテをあて引っこ抜いて、八つ裂きにはせず、ゴミ箱へ逃がしてやった。
その穴には新しくリード線をさして、表には十分伸ばしておいた。

大分遠まわりしたが、ゴールが見えてきた。
基板を外してというのはいずれ暇なときにやるつもりではいた。コンデンサを交換するとかになればそれはやらざるをえない。
今、外していろいろわかったが、新しいダイオードはリードが太すぎて基板に穴をあけるとパターン壊すのは予想がつく。もし、キチンと付け直すとしても、この継ぎ木の方法をとるだろう。で、遠まわりも無駄にはならなかった。

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彼はついにダイオードを付け換えた。戦いに勝利した。たぶん。
いくつものコネクタをさして、すべてを組みたて直した。
天板を載せる前に、電源を入れた。ホッとした。
爆発しない。煙出ない。焦げ臭くない。なんともない。電源はOk だ。
しかし、分解と組立てのどこかで、線を切ったり、コネクタの微細な爪を壊しているかも知れない。

天板もはめた。いよいよCD をかける。
トレイ出た。
データ読み込んだ。再生!
音出た。ウッハッハ。OK。OK。
音は締まりがかかって密度が濃くなった。「感じがする」のではなく、確かに良くなった。
1段ランクが上がったのは間違いねえ。と彼は思った。

彼は急いで飲み屋に走れメロスだった。日没に間に合った。ビールをあおった。苦難に勝利した男の喉を冷たいビールが洗って落ちる。
「いやね、今日はさ、ファーストリカバリダイオードをね」と彼は飲み屋のママに言わなかった。言っても仕方がない。
さらに祝杯を重ねるのだった。

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上が今までの普通のダイオード。下が今回交換したダイオード

いずれは改めて、作り直すでしょう。その時はコンデンサなども取り換えて、制振材も貼るつもりです。何度も基板を外すとどこか壊れますから、あと1回勝負です。