CB小僧 登場


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 CB小僧は自転車で近所の公園に来た。

 CBとはシチズンバンド、市民無線のことである。免許なしで出来る。ただし、周波数は27MHz前後で、出力は0.5W以下。というキマリ。

 CB小僧はきのうまで、アマチュア無線ハムじじいであった。それが急にCB無線に興味を持ったのである。

 若いころからCBのことはあるていど知ってはいた。しかし、ハムの免許持ってるのに、不自由な、ショボイCBやることもねえだろと、たかをくくっていた。

 今年、春ころ、自分が手にしたことのない、昔のBCLラジオが急に欲しくなって、ソニーの スカイセンサー ICF-5800 と ナショナルの クーガー RF-2200 を入手した。それで27MHzあたりをきくと、CB無線が聞こえた。

 その声はかなり興奮していた。Eスポが出て、国内のDX(遠距離交信)に成功したようだ。声の主は岡山の人だった。関東に住むハムじじいのBCLラジオによくまあ、入感したものである。

 しかし、たかが、国内Eスポだろ? なんでそんなに興奮してるの? と思った。

 そのあとでYouTubeでたまたまCB無線の紹介を見た。そこで新たに知ったのである。外部アンテナを付けては違法だ。リグについているロッドアンテナのみである。こりゃ飛ばすの大変だ。チャンネルは8chしかない。混信するだろうなあ。


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 CB小僧は自転車でやって来る。急にCBやってみるべしとて、1980年代の中古トランシーバーを入手したのである。

 スプリアスについても「当面の間」と御ふれが出たので問題なしと調べた。

 公園には草野球のグランドかあって、かなり開けて空が見える。晴れると夏の炎天下。死ぬ。木陰に入れば良いが、アンテナの上が木の葉では電波が飛ばない。交信時には炎天下に出る。


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 ハムなら、アンテナだけ良き所に立て、自分はあずま屋か木陰かテントの中か車の中にいる。楽なもんだ。CBはきついなあ。とわかった。

 このとき、手にしたトランシーバーから、新潟の局のCQが聞こえた。来た! と興奮し、興奮しながら、新潟の局を呼んだ。応答が来た! 興奮のるつぼの中でコールサインと了解度と信号強度を確認しあった。交信成立。互いに53であった。10秒かからなかった。のんびりしてはいられない。他の局も待っているだろうし、Eスポが落ちるかもしれないし、混信が邪魔するかも知れない。「ありがとうございました 73」と言って交信終了した。

 CB小僧は自分の胸の鼓動をきいた。こんなドキドキ感は、中学のとき、初めてハムの交信をしたとき以来だと思った。

 いい歳こいて、まるで中学生じゃねえのと思った。

 

 たった0.5Wでしかも付属のロッドアンテナという、非力なリグ。こんな無線機を使う者同士だからこそ、交信成立が嬉しい。

 こんなオモチャで、Eスポにのって、1000Kmも離れた局とつながる。

 

 別の日、盛岡 和歌山 九州 の3局と交信できた。

盛岡の局は、CB小僧の方がCQを出して、応答してくれたものである。九州は何県かわからない。本州局のコールサインにポータブル6(シックス)がついていた。興奮とあせりのために県名をきき損ねたのであった。

 

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 トランシーバーは SONY ICB-87R という機種。電池こみで1キロくらい。さして重くはない。片手で顔の横か前に持つ。デカイ受話器のようなものである。戦争映画の中で兵士がこんなの持ってたなあ、とCB小僧は思った。


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 CB小僧はサドルの上に手帳を固定する方法を発明した。大きめの輪ゴム1本。

 トランシーバーを耳にあて、荷台にまたがり、地に両足をついて交信する。サドルの上でメモをとるのである。

 

 グラウンドには野球少年たちが来る。7月の炎天下試合に熱中している。野球小僧だ。

 いい歳こいてはいるが、この暑い中、無線に熱中している俺も、小僧だな、と思った。