探し物妖精 ~ ループアンテナ幻想 ~


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 最近、また部屋の中の探し物で苦労した。それは、例の『片づけ妖精』が現われる以前に、どこかへ仕舞いこんだ物で、2日間も探したのに出てこなかった。3日めにはマジ泣きたいくらいだった。

 「おっかしいなあ。どこやっちゃったんだ? ぜ一ったいあるはずなんだよ」
と呟いたとき、

「ご主人様、お呼びでしょうか」
と、見たことない少女が、フワッと現われた。
「や、別に呼んでないけど」
「え、そうですかあ? では失礼し・・・」と、消えそうになった。
「あ、ちょっと待った。君、なに?」
「探し物妖精ですよ、ご存じのとおり」
「え、あ、うん、そうだったね。ちょっとね、今、探し物してたんだ」

 「では、わたしの横に立って、その物のことを強く念じて下さい」
彼女は部屋の真ん中に立った。私はその横に立った。 
 
 私がその物のことを念じれば、その波動が隠れているそいつに反射して返って来る。それを彼女の魔法の杖が捉えるという仕組みだ。
 その杖には指向性があって、彼女の前後に存在する物の波動は受信するが、真横の波は受信しないのである。
 だから私が横に立って念じる場合、杖の邪魔にはならないのである。もし、彼女の前後で念じれば、その念波が直接杖に入ってしまい、探し物の反射波が捉えられないことになってしまう。
 
 よく見ると、杖の頭のひし形は、金の糸が隙間をとって数回巻かれたものであった。その下には蝶の羽の形をした銀の薄い板が、ゆっくり開いたり閉じたりしている。さすが妖精の道具だ、金と銀か。石突きはサファイヤじゃないか。しゃれてるな。お、ひし形の真ん中には透き通った十字があるぞ。え? クリスタル? 水晶か。
 

 ん? あっ、金の糸がループで、蝶の羽は可変コンデンサーじゃねえの。全くループアンテナだ! 

 しかも金は銅なんかより抵抗がずっと小さいから、このループ、Q が高いってこったぞ! 感度がいいというわけだ。真ん中の十字も水晶だかんね、発振とか共振の助けになってるかも。いとも、うベなり。感心この上なし。
 思念なんて、蚊の屁よりも微かなのに、さすが共振の力だな。それに、ループアンテナなんだから指向性があるのも当然だ。
 とするとだな、思念てのは電磁波なのか? うーむ。

 

 「ご主人様、何をぼんやりしてるんですか? ちゃんと念じて下さい」

「あ、すまん」

私たちは、部屋の真ん中で、3回くらい回った。彼女は杖を傾けたりとか、いろいろしていた。
「あっ、上の方です。わかりました! それは、押入れの上です」
私は天袋を開けて見た。
「そこの奥の箱の中の、箱の中です」
私は言われた通り探ってみた。

あった! 1度は調べた所だが、まだよく見てなかったんだ。
「ありがと。君のおかげだ。なんかお礼をしなくちゃね」
「ご褒美ですね」
なんて謙虚なんだと感心した。
「で、何がいい?」
「じゃ、人間界のワインを下さい。赤いのがいいです」
「え? 君、未成年でしょ」
「いいえ、わたし、10万17才です」

 私は冷蔵庫にあった、スペインの、安いけど美味い、『王様の涙』というワインをひと瓶、持たせてやった。
彼女は、ニコッと微笑んでフワッと消えた。